ZX-10Rリアサスリンク製作
ZX-10R用に製作したリアサスのリンクプレートとリンクロッド
製作したとは言え、数値を指定してもらい、形状をアレンジしただけですので、オリジナルではないのですけどね。
これが海を渡って遠くの国で使うというので、遠くの世界に憧れてメカニックを志した自分にとっては、このオーダーが大変嬉しく、少しでも役に立てればと言う気持ちで作ったパーツです。
ただ、このリンクという部品、オートバイの性格を変えてしまうとても難しい部品でして、ものすごーく良くなることもあれば、まったく使い物にならないくらい危険部品になってしまったり、これを変更することで、サスペンションのセッティングもまったく違う方向に進むこともあり、これひとつ変えることで、その後の仕事が一気に増えるという、薬にも毒にもなり得る部品です。
そんなものなので、海外まで行ったはいいけど、使うことなく、パーツのボックスの片隅で一生を終える運命になるかもしれません。
こちらは昨年作りました同じくZX-10R用のリンクです。
海外と日本では路面のグリップも違いますし、使用するタイヤでも評価が分かれるところ。
基本ノーマルが良くできていますので、良くできたリンクの動きの、「この部分の動きがこうなってほしい」 などということに対して設計してみたら、「この部分以外も動きすぎるようになって、良くなったところは少しで、全体的には悪くなってしまった」 ということも多々あり、その場でリンクを元に戻すか、そのままサスなどの他のパーツでアジャストして探っていくのかが難しい判断になるのですけど、シーズンが始まってしまうと結果が欲しくなりますので、今後の長い試練のセッティングの道を選ぶためには、今のようなシーズンオフにテストができる環境にあるチームではないとこのパーツを変更するには仕上げるのに時間を要してしまいますね。
この作らせていただいたリンク、この年始に製作し海を渡り、先日のテストの結果、ベストタイムもアベレージタイムも大幅に上がり、もう1名分のリンクも作ってほしいという喜ばしいオーダーがあり、ひと安心。 これが自分たちでデザインしたリンクだとより嬉しいのですけど、なかなかこれを設計するのは難しい仕事ですので、ひそかに作って、「これも試してみて」 とお願いしてみようかなと企んでいたりしています。
同じメカニックとしては、このリンクのデータを確認、解析していましたので、サスのスプリングはこのくらい変化するのだろうなーとか、そうなるとフロントのセッティングもこんな風になるはずだ、というような想像をして楽しんでいました。 昨日、そのメカニックさんが日本に帰ってきてすぐに連絡をいただいたので、その答え合わせに好奇心が爆発して質問をしまくり、まるで自分が現地でセッティングをしているかのような気持ちになり電話を切らずご迷惑をかけてしまいました。
とあるパーツを違うものにする ⇒ タイムが落ちる ⇒ 元に戻す ⇒ ⇒ これだと先に進むことは困難です。
これまでセットアップしてきたマシンに、流れと違うものを投入すると、最初はほぼタイムは落ちるはずです。 そこからがメカニックの仕事の始まりで、なぜそのリンクの動きが欲しいのかを理解して変更したなら、その最初に立てたストーリーに従い、全体を仕立てていく能力がないならば、そのような難しいパーツは交換しないほうが賢明ですし、どこかのチームが使っているからという理由で変更しても、大元のストーリーがなく変更しても良いところは見つからないと思いますので、交換しない方が賢明だと思います。
それくらいオートバイのパーツを変更することはリスクが高く、全体を理解することができていないと、数打てばどれかがいつか当たるとうようないい加減な部品交換(セッティングとは言えませんね)の単なる作業になってしまいます。
よくあるのはファクトリーチームのお下がりのパーツが手に入って、それに期待して使ってみるとタイムは同じどころか落ちてしまったというお話。 まずはタイヤが大きく違ったり、エンジンの特性が違ったり、電子制御が違ったり、何よりライダーのレベルが違うと、そこでバランスを取っているものを、こちらに持って来てもまったくバランスが狂って機能しなくなります。 あちらはあちらのバランスなりに正常進化をして出来たパーツであり、こちらはこちらなりにバランスを取ったものですので、そのパーツが行き来しても良いバランスにはならないということなのですね。 何が言いたいかと言いますと、いつも当ブログで書いていることですけど、一番大切なのはバランスが取れているかどうかということ。 それはレーサーでもストリートでも同じことですので、何かが突出したパーツを採用するとバランスが崩れて、それに合わせて作っていくことで、オートバイは変な方向に行ってしまうか、大きくバランスが崩れたおかしなマシンのまま乗ることになってしまうかのどちらかになります。
なぜ、現代のスーパースポーツマシンにも華奢なフレームの旧車にもタイヤメーカーのカタログの最初の方にあるハイグリップタイヤを着けたがるのかが不思議で、それはまったく適材適所からは遠く離れてしまうことで、上記のアンバランスの最たるものだと思うのです。
個別の性能よりもバランスが大事。 これを理解しているショップ、メカさんと出会えることがバランスを整える一番大事なことかもしれませんね。
今日のお題はマシンセッティングはストーリーとバランスが大事ということで…