Z1エンジンオーバーホール
Z1のエンジンのオーバーホール
某有名な旧車専門店から購入された方が納車してから早くも不調を感じて入庫してきましたZ1
エンジンからのオイル漏れなど、見た目にも問題あり、乗ってみても今一つな感じでしたので、まずは腰上を分解してみてから状況を確認しましょうということになりました。
購入時には一度エンジンをOHしてあるとのことでしたが、チェックしながら分解を進めていくと、圧縮の低下、バルブガイドのガタ、カムのかじり、シリンダスリーブの不具合等々いろんな不具合が出現してきて、コンロッドのスモールエンドのガタが4気筒とも大きかったことからフルオーバーホールをするしかないことが判明しました。
エンジンを分解する前にオイル漏れの一番激しかったクランクケース左側は外側から何やら変な加工がしてあり、どう見ても怪しいけど、なぜこんなところからオイルが滲んでいるのかわかりませんでしたが、分解して内側から見てみると画像のように、折れこんだボルトを取り除こうとして、ドリルでボルトを削る時に斜めになってしまいクランクケース本体を削ってしまい穴を開けていました。 表側は何もなかったかのように他のネジを切ったボスが埋め込んでおり、ぱっと見は問題ないようなフリをしていた感じでした。
その部分は溶接をして穴を埋めて、ネジ穴も再生させて復活できたまでは良かったのだけど…
その作業をしている時に金属パテのようなものをクランクケース内に塗られていたものを発見してから長期に渡り苦悩が始まるとは思いもよりませんでした。
しかもこの箇所はオイルラインでして、パテを剥がしてエアでオイルラインに圧をかけてみると…
深くクラックが入っていることは判明…
長年クラックの面にオイルが染み込んでいたので、溶接を何度やっても、やり方を変えても穴が埋まらないということが続いて、溶接してはダメでまた削ってを何度も何度も繰り返して… と書いていると、きっと、経験者は 「何やっているんだよ、こうやればいいんだよ! 溶接棒がわるいんじゃないの?」 などと言われると思うのですけど、そこはこちらも無知ではなく、ありとあらゆることを手を変え品を変えトライしてみても、ただただ時間と体力が消耗していく日々が数カ月続きました。 旧車でよく出会う、時給数十円にもなってないかな?数円の仕事となってしまいました(泣)
最後には古くからのお客様の御親戚が難しい特殊な溶接専門の業者さんだということで紹介してもらい、助けてもらうことになったので、やっと苦悩から解放されるし、このZ1のオーナーさんにも良い報告ができると安堵していたのと同時に 「自分たちは能力ないなー」 とかなり落ち込んでいたところ… 「なぜか溶接がひっつかない…」 というまさかの連絡が… うそーっ、という気持ちとともに、やっぱり凄い難しい案件だったのかと自分を慰めたり、でもそれでは解決しないので、さてどうしましょうということでしたが、溶接職人さんもさすがの対応で、やり始めたので最終的にはどうにかするから時間をくれと、また時給数十円の仲間を増やすことに…
「これでどうだ」 と送られてくたクランクケースはしっかりと溶接できている様子です。
かなり熱をかけてしまっていますので、歪みが気になるところ。 ケース上下、オイルパン、ダミーのシリンダ、ダミーのシリンダヘッドまでを規定トルクで組んでからよっしーが所有している温度管理が出来るオーブンで設定温度まで熱を入れて、その後ゆっくりと温度を下げていきます。 これで歪みがなくなるわけではないのはわかっているけど、やらないよりはやった方がいいので、やっぱりひと手間かけます。
これを分解してからクラックを確認するためのレッドチェックをしてみると、問題になるようなクラックは出てきませんでしたので、やっとこれで組ことになりました。
しかし、ここまでやっても実際にエンジンを組んで走行したらどうなるのかは走行後に分解してみないとわかりません。 レースでしたら確認のために分解するのはあたりまえだけど、当然そこまでの予算があるわけでもなく、組んでしまえばただただ壊れないように祈るしかありません。 エンジンで一番大事なクランクケースですので、ここまでダメージを負ったものを再使用するべきではないのは解っているのですけど、良いものの入手であったり、エンジン番号であったりと、古くなればなるほど、釈然としない理由で整備しなければならないのもメカニックとしては辛いところです。
もうひとつの問題のクランクシャフトはビトーR&DさんでOHしてもらい、こちらも組付ける前に振れの確認をしておきます。
トランスミッション周りの部品も消耗しているギアなどは手持ちの程度の良いものに交換して組みます。
ベアリングはもちろん新品ですね。
このようにひとつひとつきちんと整備をしていきますと時間も費用もかかります。 逆にきちんとしていないと安くなります。 エンジンOH済みの中古車が安かったら、きちんと時間をかけてOHしているわけはありませんし、いろんな箇所の部品が新品に変わっているわけはありません。 エンジンOH、キャブレターセティングなど項目の名前は同じでも、やっていることの内容は比べ物にならないくらいまったく違います。 分解して、洗って、組むだけでもショップによってはエンジンOHと呼ばれます。 上記のクラックに気付くこともないでしょう。 もしかしたらコンロッドのガタに気付くこともなく再使用するかもしれません。 双方が気付かないと、そのショップのエンジンOHは安いくて良いお店だという評判になるかもしれませんよね。 ウッドストックではもちろん臨機応変には対応しますが、基本的にはきちんとしないと気が済まないですので、時間もかかりますし、それなりの費用もかかります。 大事なオートバイライフですので、どのようにマシンやショップを扱ってあげるのが良いのか深ーく考えてからやり方を選ぶのをお勧めします。