ZX-6Rエンジンオーバーホール
ZX-6Rのエンジンのオーバーホール
前回のブログではクランクシャフト周りのパーツの確認作業をご紹介してみました。 今回はもっと上のシリンダ、シリンダヘッド周辺を。
こちらはバルブガイドの振れを測定しているところ。 案外この部分を見過ごしているのではないかというヘッドを見かけることがあります。 せっかく丁寧にバルブシートカットを施してあげたとしても、ここにガタがあると当然密着度は下がりますし、バルブ、バルブシートの当たりもだんだんと広くなってしまい、必要な圧縮を稼ぐことができなくなりますので、大事な作業の中のひとつです。
もちろん、規定値を外れた箇所はガイドの入替え作業をしなければいけません。
そして、バルブシートカット。 この車両はレース用ですので、走行距離もそれほどでもなく、少しの荒れを修正する程度なのですけど、街乗りで何万キロも走行したエンジンはバルブシートが酷くデコボコになっていますので、それを綺麗に面が出るまで研磨するのは本当に大変な作業です。
シリンダとの合い面も綺麗に面出しして、バルブも新品にします。
バルブシートカットのような作業も自分の感覚だけを信じ込むのではなく、測定した数値で確認しておかないと、後で不具合が出た時に原因の追及に時間がかかってしまいます。 メカニックとして自分に自信があるのは悪いことではないのかもしれませんが、常にこれで良いのか、失敗はしていないのかと心配しておいた方が結果的には成功率が上がるに違いないと思って作業をしています(実際自信ないし…)
シリンダの内径の測定。
ピストン、コンロッドのクラックチェック。
ピストンリングの合口の測定。
そして、数々の測定や修正などの下準備が終わりましたら、やっと組付けが始めることができます。
逆に言いますと、とても丁寧に下準備をしておくと、いらぬ心配する必要がなく、早く組むことが出来ます。 確認と準備8割、組付け2割くらいでしょうか? なんの仕事でもそうですが、行き当たりばったりでは良い仕事が出来ず、完成までのストーリーをしっかり立てることで、見過ごすことを無くし、ミスをなくすことに繋がると思います。 そこまで管理してもミスをする自分はどれだけ実力がないものかと残念になることもしばしばですが…
新品のピストンは外径を測定して、先立って測定していたシリンダの内径と4つのクリアランスに差が出ないように組み合わせを考えて組みます。
そして、シリンダヘッドも載せて、バルブクリアランスの測定、バルブタイミングの測定、バルブとピストンのクリアランスの測定をして、問題なければやっとこさ完了となります。
ここまでご紹介した測定や調整をすっ飛ばしてもエンジンは組めますし、ある程度、消耗品を交換すればオイルが漏れることなく、ネジを左に回して、ガスケット類を交換して、ネジを右に回せば何となくオーバーホール風にはなります。 もちろんそれでしばらくは一見調子良く乗ることもできますし、組んでしまったエンジンは中が見えませんので、とても違いが解りにくくなってしまいます。
自分たちが手間をかけるのは少しでもトラブルの発生してしまう確率を下げること、少しでも性能の低下する時間を遅らせるという、時間が経過してみないとわからないことに技術と時間を注力していますので、必要のない人にとっては無駄に時間とお金をかけていると思われることもあるかもしれません。 しかし、その手間をケチったばかりに悲しい思いをした経験が多々ありますので、悲しい思いをした分、だんだんと手間をかけざるを得なくなってしまいました。 同じ部品を使って組んだエンジンは実際に乗り比べても対して体感できるほど変わらないかもしれませんけど、それでも壊れる確率を下げる努力はするべきだと信じて無駄かもしれない作業を黙々と続けています。